2009年4月9日木曜日

ケーリー・ハミルトンの定理

ブラケット記法ってテンソル積を明示すると煩雑になるし省略すると混乱を生じ易くなるしで、テンソル積が絡むとおよそ良い所がない。で、テンソル積を明示 する事で劇的に見通しが良くなる例としてケーリー・ハミルトンの定理の証明を一つ。要点は、シュミットクラス作用素と、ヒルベルト空間とその双対空間との テンソル積空間のベクトルとの対応関係が、見た目で処理できるという事。物理のかけらもない線形代数のトピックでブラケット記法の良い所探しをするとか、 ニッチ市場にも程があるが。

以下テンソル積をxと書く。

n次元(実でも複素でも)縦数ベクトル空間をLとする。Lの上の線形写像の全体をMとする。Mはnxn行列の全体と見る事もできる。Mの任意の要素Aが、行列と見た時定義される自身の固有多項式を消滅させる事を示す。

まず、自明な式

AI=IA

に着目する。Mの要素に左からAをかける写像をL_A, 左からAをかける写像をR_Aとする。すると上式は

L_A(I)=R_A(I)

と書ける。

Mの要素を対応関係|φ><ψ|~|φ>x<ψ|及び線形性を手がかりにしてM'=LxL^*のベクトルに対応させる。特にLの数ベクトル空間としての標準基底を|i>とすればI=∑|i><i|には∑|i>x<i|が対応する。

L_A, R_AはLの上ではスーパーオペレーションだが、M'の上では線形写像だ。Mの上での作用として|φ><ψ|を(A|φ>)<ψ|や|φ>(<ψ|A)に写す事から、M'の上ではこれらはAxI及びIxAだ。すなわち、自明な式AI=IAからいつのまにか非自明な式

(AxI-IxA)∑|i>x<i|=0,

が導かれた。(AxI-IxA)を行列成分の行列、∑|i>x<i|を横ベクトル成分の縦ベクトルと見なそう。(AxI-IxA)の余因子行列の転置を両辺にかけると、

diag(det(AxI-IxA))∑|i>x<i|=diag(φ(A))∑|i>x<i|=0,

を得る。ここでφはAの固有多項式。この結果はφ(A)の全ての行が横零ベクトルである事を示すから、φ(A)=Oが導かれた。

0 件のコメント: